第32章 月見ず月(4)
ピンポーン。
インターホンを鳴らして、
暫く待っていると。
ガチャ。
玄関の扉が開いて、家康が中から出てくる。その表情は私と同じぐらいぎこちなくて……
つい視線を逸らしてしまった。
「……お母さんに頼まれて」
良かったら食べてね。
私は持っていた紙袋を家康に渡し、
お母さんからの伝言を伝える。
「後で、お礼の電話しとく」
「わざわざ良いよ。ご近所だし……幼馴染なんだから……」
「……………」
私達の間に、沈黙が流れる。
水族館のこと言わなきゃ。
頭ではそう思っても詰まったように声が、出てこない。
履いてるスカートの裾を手が掴んでいて、無意識にぎゅっと握る。
(ちゃんと言わなきゃ。水族館、行きたいって)
「あ、あのね!………」
顔を上げた瞬間、
出かけた言葉を引っ込める。
「……何?」
少し掠れた声。
額にうっすらと汗が浮かんでるのが見えて、私は背伸びして家康のおでこに手を当てる。
(ちょっと、熱い……)
「もしかして、風邪引いてるの!?大丈夫!?」
「……違う。ちょっと、疲れただけ。また、器返しに行くから」
紙袋を軽く上にあげて、
家の中に戻っていく家康。
嘘だ。
絶対、無理してる。
いつもそう……
おばさん達が居なくて一人でも、
こっちが聞かない限り言わない。
ご飯だって適当に作るからって、遠慮して。
体調悪くても、絶対に言わない。
(心配掛けたくないから……)
私は締まりかけた扉を掴み、
「………駄目なの?」
私が、家康の
心配したら、駄目なの…?
気付いたら……
そう声に出してた。