第172章 涙色の答案用紙(35)修学旅行編
「家康!!」
目の前に額に汗が滲んだ、家康。
「手……痛くない?」
そう言って、チラッと繋いだ手を見る。私が痛くないようにしてくれてる上に……心配までしてくれて……
顔の横に伸びた腕。
それが、ぷるぷる震えて……必死に頭の後ろに回した手だけに力を入れてくれてるのがわかる。
(とりあえず!狐の面に私が触れれば!)
急いで手を伸ばす。
すると、
「クックックックク……」
「きゃぁぁ!お、お面が喋っ……!」
狐の尖った口が動いて、手を引っ込めた。
「恐怖……なるほど。そうゆうこと。……くっそ……」
家康は苦痛に顔を歪ませながら、自分が壁を押さえている隙に、私に抜け穴から逃げるようにって。
「でも、それだと失敗しちゃうよ!家康、あんなに張り切ってたのに……それに、ボタン押して壁が止まっても、鍵がないと家康が!」
「失敗したら……多分、明智先生が開けてくれるはず。それよりも、このままだと繋いでる手……傷つける」
私はハッとして気づく。
繋いでる方の手は、家康の利き手。
「繋ぎ直すのも、無理そうだから。ほら、早く行きな」
その間に、抜け穴まで塞がるといけないからって。辛いはずなのに、いつもみたいに冷静な声と顔。
私が行きやすいように、あえて平然とした態度を取って……
(家康……。何で、そんなに…)
「俺から……っく、離したくないから……っ」
ーー壊れた笑顔を見た瞬間。それに耐えきれずに、俺は……。
(そうだ。あの赤い橋で……家康は手を緩めた事を……ずっと自分を責めて後悔して……)
ガガッガガガッ……
追い討ちをかけるように迫る壁。
もう少しで抜け穴が塞がる。
私はぎゅっと両手に力を入れて……
「一緒に出たいから」
「ひまり……」
狐の面に恐る恐る手を伸ばす。
「クックックッ……」
そして、触れた。
すると、壁が止まり。
「私が一番欲しいモノ……」
家康を一度だけ見上げて……
視線を少し落とす。
(何で、今まで……)
涙を堪えながら、
そっと葵紋に……
家康の左胸に……
触れた。