第172章 涙色の答案用紙(35)修学旅行編
目を閉じているのと変わらない暗闇。
五秒かもしれない、一分ぐらいかかったかもしれない。
でも少しずつ目が慣れて、やや淡い薄暗い部屋の中。壁と壁に挟まれた通路。二人が並んでちょっとゆとりがあるぐらい。床は想像通りの木板。
そして……
「やっと、開けた」
家康の顔がぼんやりとだけ見えた。
どんな顔してるかまでは、はっきり見えないけど声は優しくて……
「暗くても、ひまりの顔見たい」
繋いでないもう片方の手で、髪を梳くように撫で……するりと私の顎を持ち上げる。
「……甘えるのは、良いけど。早く全部終わらせて、二人でゆっくりしたいから」
その言葉に胸がきゅんってなって、頬が一気に熱くなる。嬉しいのと気恥ずさから、ただ静かにコクコクと頷くと、家康は顎から手を離す。
そして、今度は
顔を近づけて……
「……頬。赤くなってる」
目が一瞬だけ合う。
「く、暗いのに見えるの?///」
家康は返事をしないまま……
そのままスッと頭を傾けて……
今度は私の耳元に顔を寄せると……
……かわい。
そう、甘い声で囁いた。
「っ///……」
吐息がかかりそうな程、近づいた顔。
暗さが逆に私達の間に、
甘い雰囲気を届けて……
全く音のない空間。
恐怖でドキドキしていた胸が、
違う意味でドキドキし始めて……。
この距離だと、聞こえちゃう気がして……少しでも気づかれないように、
左手を胸に添えた時。
「まぁ…。俺も人のこと言えないけど」
繋いだ方の手。
家康はゆっくり持ち上げて、
自分の頬に当てる。
(あ……。熱い………)
じんわり手から、伝わる温度。
すぐにパッと離してそっぽを向くから……頬が赤いかどうかは、全然見えなかったけど。
(手が熱い……)
「……手。離さないから安心して」
それから私は、ぎゅうぎゅうにしがみ付いていた身体を少しだけ離して、寄り添うように歩いた。