第172章 涙色の答案用紙(35)修学旅行編
「ひまり行くよ!」
「え!?急にどうしたの!?さっきまで、嫌そうだったのに……それに馬なんて乗れるの!?」
俺は佐助から和弓(戦国時代、弓矢)を受け取り、用意された白い馬に跨る。
「一応、乗馬経験がある。ほら、手」
数回だけど。
しかも、かなり昔に。
あえてその言葉は飲み込み。ひまりを自分の前に横座りさせる。
「後ろだと見えないから」
「う、うん!うわぁ!馬に乗るの初めて!ちょっとワクワクしてきた」
はしゃぎ出すひまり。
その姿につい口元が緩くなるが……あることに気づき、視線を逸らす。
正直、この態勢は色々と不味い。
「羽織ちゃんと着て」
「そうだ!走ったら、風当たるもんね!風邪引いたら大変!!」
(違うし……。まぁ、良いけど)
なるべく視線を遠くに向け、手綱を強く握る。
「では、二人の武運を祈って……」
佐助は何処からか法螺貝を取り出し……
ブォォォォン……。
吹き鳴らした。
途端。
ドドドドドッ!!!
地を揺るがすような、とどろき音が背後から聞こえ……
振り返った瞬間、後悔。
「いざ!出陣ーーっ!!」
先頭にした黒い馬から、
木瓜紋が付いた旗が上がる。
兵士の格好、鬼の面、人数は……ざっと見積もって十、いや、二十はいる。
「はぁ!!?向こうも馬なわけ!?」
「い、家康!?は、早く!!鬼さんいっぱい来た!!」
ひまりは俺の腰元に腕を回して、しがみ付く。落ちないでよ、そう一言だけ告げ……手綱を強く振る。
「かかれーっ!」
まさに、合戦。
佐助はいつの間にか姿を消し、戦国時代の城下町を再現した園内を、馬で駆けた。
的当て鬼ごっこ開始__