第30章 月見ず月(2)
「ありがとう!送ってくれて!」
お礼を言うと、なんなら毎日でも構いませんよ?相変わらず天使のような笑顔で、私の頭をそっと撫でた。
中学の時は、いつも私が撫でていた方だからか何だか落ち着かない。
ついソワソワしてしまう。
「……ひまり先輩、今度はぜひデートして下さいね」
「ふふっ。三成君がデートって言うと何か、不思議な感じがするね?」
「そうですか?私は至って真剣ですが……」
そう言った後、三成君の目が途端に雰囲気を変える。
沈みかけた夕日は、コンクリートに伸びた影を消しながら揺れ。
休日で出掛けている家が多いのか、辺りは静けさに包まれていて……
少し離れた道路で車が走る音が、よく耳に届く。
「これでも必死なんですよ?貴方を口説くのに……」
え?
三成君の手が、私の頭からゆっくり頬に降りてきて……
「二人っきりで色々としたいので、お願いします」
「う、うん?なら、また今度誘ってね」
色々と?
一体、何をするんだろう?
と、思いつつ。そう返事をした。
帰っていく三成君の背中を見送り、家の中に入る。
「ただいまーー!」
「おかえり!ちょうど良かったわ!コレ、お願い!」
玄関で靴を脱いでいると、お母さんに何の説明もなく紙袋を渡され……
中を見るとまだ温かい料理が入っていた。
「自分で適当に作るからって、家康君言ってたんだけど」
「え?何の話??」
「ひまり聞いてないの?仲良いのに?」
私はお母さんから事情を聞き、脱いだばかりの靴を履く。
何でも昨夜から、おばちゃんとおじちゃん……つまり家康のご両親は、夫婦揃って海外旅行に出掛けたみたいで。
「……家康、いつもそういう話はしないから」
うちに迷惑掛けたくないからって。
ギクシャクしてる今だったら、尚更言わないだろうし。
「家康君に、何ならゴールデンウィーク中はうちに食べにくるようにって、伝えといて!」
「う、うん!一応伝えてくるね」
流石に気まずいから、なんて子供の時みたいに我儘も言えず渋々玄関を出る。
部屋に灯りが点いてるのを確認し、軽く深呼吸をしてからインターホーンを鳴らす。
水族館の話もまだ、してないからちゃんと今日話さないと。
やっぱり、行きたいって。