第168章 涙色の答案用紙(32)修学旅行編
もう一度、縁ちゃんにお礼を言うと……。それ?お兄ちゃんに貰ったの?と聞かれて……。
私は、頷く。
(あれ?でも?つつじさんに話したかな?)
記憶を辿ろうとした時。
グイッと腕を横から掴まれて、
「ひまり。時間ないから行くよ」
「う、うん!つつじさん、ご主人さん、大切な着物を汚してしまって……本当にすいませんでした」
「家康くんに事情は、話したからねぇ。また、明日待ってるよ」
え?つつじさんの言葉にキョトンとすると、家康はボソッと後から話すと言って、私の鞄を持って部屋から先に出て行く。
「またね!」縁ちゃんに手を振られ、私は不思議に思いながら、手を振り返す。そして部屋を出る前に一礼だけして、家康の後を追った。
病院に向かって走り出す車。
迷惑かけた上、無理なお願いをしたのに、織田先生は少しも嫌な顔をせずに引き受けてくれた。その代わり、反省文じゃなくて恋文を書くように言われて……
提出は何枚ですか?
クスクス笑いながら尋ねる私のほっぺたを、家康が横から引っ張る。
「い、ひゃい!」
「そんなの、書かなくていい」
「なら、家康。貴様が明日、一日がかりで、反省文を百枚書くか?」
先生曰く、日頃の居眠りとサボりを合わせると、それぐらいの枚数は溜まっているらしい。
「無理。明日は一日、ひまりと約束したから一分も無駄にしない」
「ならば、明後日にするか?」
「……鬼」
家康はそれっきり、口を閉ざす。
先生のが何枚も上手みたい。
近くにあるコンビニだけ寄って貰った後、病院に着いて私と家康は車から降りる。
すると、ちょうど明智先生が外で電話を掛けている所で……
「白鳥の親に連絡していた。今、母親が電車で此方に向かっている。父親は、多忙で明日になるそうだ」
「そうですか……」
家康から天音ちゃんの、
ご両親の事情はさっき聞いたばかり。