第168章 涙色の答案用紙(32)修学旅行編
シャワーのコックを捻る。
温かいお湯。
それを頭から浴びて……
冷えた身体がみるみる体温を取り戻す。
シャッ…ーー……ッ…。
雨に似た音。
まだ、ドキドキする胸。
でも今は余韻に浸る時間もなくて、私は簡単に髪を拭き取り、制服に着替えると、荷物を取りに向かう。
襖を開け中に入ると、既に着替えを済ました家康と、ご主人さん……そしてつつじさんとその横に体育座りをした一人の女の子の姿が見えて……
「あ!!」すぐに昼間、橋で出会ったピンク色のランドセルの女の子だとわかり、声を上げると……つつじさんが、離れに住む孫娘さんだと紹介してくれた。
「ご縁の縁って書いて、ゆかり!お姉ちゃんが着てた着物ね!昨日の夜、おばぁちゃんが見せてくれたばっかりだったから!」
「そっかぁ!だから、またね!って、言ってくれたんだ〜。えっと……」
「ゆかり!ご縁の縁って書いて、ゆかりっていうの!おばぁちゃんがね!名付けてくれたんだ〜」
私が素敵な名前だね!って言うと、笑くぼを浮かばせ、縁ちゃんはニッコリ笑う。そして、着ていたピンク色のカーディガンのポケットに手を入れて……
何かを取り出すと、
「多分ね!お姉ちゃんとぶつかった時に、ポケットに入っちゃったみたいで!はい!コレ」
手をパッと開いた。
手の平でキラリと光る、ヘアピン。
それを見た瞬間、
じわっと目頭が熱くなる。
あれだけ
探しても見つからなくて……
池に落ちたのかと、
思って諦めかけていた。
本当に嬉しくて。
「あ、りがと。コレね、すっごい大切な物で……本当にありがとう!」
すっかり家康が近くにいるのも忘れて、三つ葉のヘアピンを受け取り、目尻に溜まった涙を指で隠す。
「きっと、ひまりちゃんのだと思ってね。この子、どうしても直接聞いて渡したいからと、一緒に待ってたんだよ」
つつじさんは北海道で会った時に、私の髪に付いていたことを覚えてくれてたみたいで……交番に届けようとしていた縁ちゃんを引き止めてくれていた。