第167章 涙色の答案用紙(31)修学旅行編
後部座席。
ひまりは濡れた着物を気にしているのか、シート全面に座らず手前にちょこんと座り……
「先生。ご迷惑お掛けして、本当にごめんなさい」
車が走り出す前に
運転席の方に身体を向け、頭を下げた。
「……反省してるなら良い」
織田先生はミラー越しにその姿を確認して、スッと視線を俺に移す。
「俺には、何か言いたそうに見えますけど」
「フンッ。少しは成長したようだな?……後で、報告に来い」
それだけ言って、エンジンをかけ、ハンドルを握るのが見えた。
報告?何の?小さく呟く、ひまり。俺は気にしなくて良いとだけ返事すると、繋いだ手を強く握る。
安心したように少し笑みを浮かべ、ひまりはぶるりと身体を揺らし、外の景色をぼんやり眺めていた。
(まだ、笑顔。……見てない)
すぐに戻るとは、思ってない。
けど、早く見たいと願う自分がいる。
成長したのかしてないのか。
ただ……
「くしゅんっ……」
「もう少しで着くから」
(もう少しで気付けそう)
理由もなく、そんな予感だけが走る。
拒絶もせず受け入れるように、握り返された手。この温もりが、まだ何かを俺に伝えている気がした。
大通りから脇道に入り、暫く狭い道を走り……呉服屋に着く。
店前に停車して車から降りたひまりに、真っ先に駆け寄って来たのは……
「ばか!今度、こんなに心配かけさせたら、恋バナも惚気も一生聞いてあげないか、らっ!」
「ご、めんねっ。ゆっちゃん……ありが、と」
制服が濡れようが気にせず小春川はひまりと身体をピッタリと合わせ、抱き合う。一足遅れて店から出て来た政宗は、そんな二人に世話を焼いて、中に入るように促すと……俺に向かって「お前もだ」と言いながら顎を動かす。
「面会は九時までだ。時間がない。ささっと、着替えて来い」
「……ほんと、ひまりには甘いですね」
「反省文、何枚でも書くと言っていたからな。俺への恋文でも、書かせてやるか?」
その言葉にギロリと睨むと「どっかの馬鹿は、まだ手に入れてないようだからな?」と、満足そうに鬼はニヤリと笑った。