第167章 涙色の答案用紙(31)修学旅行編
夜の七時過ぎ。
月明かりに照らされた橋。
俺は、切れた草履の鼻緒を直す。
「え?つつじさんが?」
「ひまりがドジなの知ってたんじゃない?」
呉服屋を出る前に赤い紐を渡されたことを、俺は話す。切れると縁起が悪いとは昔からよく聞くが……
(結局、何が原因かわかんなかった)
さっき、織田先生から電話があった。外で待っててやるから、風邪引く前に戻ってこい。その要件だけ。
ワームホールについては、何も話さなかった。本当にひまりの心が影響してたのか、ただの異常現象だったのか。
(今、こうしてひまりがいる。俺はそれだけで良い)
手を繋ぎながら来た道を戻る。
真ん中に差し掛かり、ひまりは赤い手摺から池を覗き込んだ。
(風邪引くって言ってんのに)
「綺麗だったね。花火」
池に映る月。
それを見ながら呟く横顔。
その横顔がどれだけ人の目を惹きつけ、花火よりも綺麗か……いつか自覚して欲しいと心の中で思う。
駐車場に向かって歩きながら、ひまりは携帯にぶら下がるイルカをまじまじと見つめ……
「このイルカのストラップが繋いでくれたのかな?だって、電源消えてたんだよ?」
心底、不思議そうに言う。それとも落とした拍子に、点いたのかな?あれこれブツブツ言いながら考える姿。
こんな、間近で見るのほんと久々。
喧嘩してたわけじゃないけど、喧嘩してた方が遥かにマシだった。
手を伸ばせば触れれる距離。
(心臓持たないかも)
ひまりに好きとか言われる自分。
想像しただけで、やばい。
「事情が事情だ。自由行動の時間を過ぎたのは多めに見てやる……が」
愛車に寄りかかりニヤリと笑う鬼。
嫌な予感がひしひし伝わって、無視して車に乗り込む。