第167章 涙色の答案用紙(31)修学旅行編
暫く見つめ合って。
家康の顔が至近距離まで近づいて……
お互いの濡れた髪からポタポタ雫が、降り注いで。
『答え合せ』
家康の瞳がそう言っているように見えて。鼓動が大きく跳ねる。
思わず恥ずかしくなって。睫毛を少し、下に向ける。
何日振りかな?
ヘアピンがいつもあった所を、ぎゅっと掴んだ。
「髪も雨の匂いしかしないし、ヘアピンもないし、家康に貰ったリップも今は、付けてなくて……」
新学期。
答え合せに行った私は、今いない。
「笑顔だって、前とは違うかもしれない」
辛かった分。失ったモノがあって。
でも、今はその中にある大切なことに沢山気づいた。側にいてくれた皆んなの優しさ。
人を思いやる気持ち、伝える難しさ、向き合う大切さ、遠回りしたからこそ今、この瞬間が胸いっぱいに広がる。
「ひまり……」
きっとこれは、
意味のあった遠回りだったんだって……
だって今は、
こんなにも家康が近くに感じるから。
だから、もう不安なんてない。
「……約束。私が守れば、破ったことにならないでしょ?」
まだ、幼馴染でいて欲しい理由が出来て、首を傾げながら尋ねると……
へ?って、ぽかーんと口を開けて。
頭の回転が早い家康は瞬時に、
その言葉の意味を理解したみたいで……
「……俺を、焦らす気」
途端に眉間に皺を寄せて、
拗ねたみたいに口を尖らせた。
「……自信ないんだけど」
グッと腰元を引き寄せられて、
鼻先がぶつかる。
「だから、ヒント」
へ?今度は私がキョトンとする番。
でも……
翡翠色の瞳が閉じて
スッと家康の顔が傾くのを見て……
北海道の花火の夜。
ーー……一番のヒントあげる。
私は、目を閉じた。
《ドォォォオオオン!!》