第167章 涙色の答案用紙(31)修学旅行編
一番……つ、たえたいこと?
そう尋ねると、一つだけ約束破ってもいいかと、聞かれて……
え……?
ちょっとだけ不安な声が私の口から出る。そしたら、どうしても今、言いたいからって言われて。
何の約束かもわからない。
すぐに返事はできなくて、暫く考えて、家康の瞬きひとつしない真剣な表情を見て……
私は、コクッと頷く。
すると、手を添えていた胸元が大きく上下するのが伝わって……
石碑で言うつもりだったからって、
前置き台詞を聞いた瞬間。
私の胸が高鳴った。
「……好きだ」
俺のお姫様は
ひまりしかいない。
真っ直ぐにそう言われて。
「っ、く……」
引っ込みが効かなくなった、
涙がどんどん溢れる。
「……傷つけて、ごめん」
覗き込むように私を見る瞳。
それが、少しだけ揺れる。
家康の端正な顔立ち。
そこに、悲痛の色が浮かんで。
「…す、っごい…辛かっ…たんだから」
自然に口から零れていた。
「ほんと、ごめん。その分、これからは絶対に悲しませないから」
その分、幸せにするからって。
次から次にぽろぽろ落ちる涙。
それを、一粒一粒優しく拭き取ってくれた。
天音ちゃんとキスしてるの見た時。張り裂けそうだった。
でも、私も政宗として……
髪の香りで間違えたのも聞いて……
家康ばっかり
責めるのは違う気がして……
(私も話を聞こうとしなかった)
気持ちを聞いた今は、胸が痛む。
思わず言葉を飲み込んで、
ぎゅっと唇を噛んで俯くと……
滴る雫を掬うように、
家康の指が顎から目尻に向かって動く。
片目を閉じると、
目尻にあてたまま指が止まって……
「どんな表情も見せて欲しい……。どんな言葉でも聞かせて欲しい……」
傷ついてる顔も
泣いてる顔も見せて欲しい。って。
責める言葉でも我儘でも何でも良いから、聞かせて欲しい。って言われて。
「どんなひまりでも、今は受け止めたいから」
雨で濡れた髪なのに。
家康は指を絡ませ、
口元に寄せると目を伏せる。
でも、すぐにまた目を開けて……
「ひまりの気持ち。聞きたい」
視線が絡んだ。