第167章 涙色の答案用紙(31)修学旅行編
後、一歩……
届きそうな時……
躓いて……
視界からフッ。
って、家康が消えて……
「きゃ……っ!」
…………そしたら
ちゃんと……
「……っと。ドジ」
転ぶ寸前で受け止めてくれた。
(い、えや……す)
閉じ込められた腕の中、凄く安心して。
お互いびしょ濡れなのに、
全く気にせずに身体を寄せ合う。
目を閉じて、肩を震わせ。
ぬくもりをいっぱい感じていたら……
「……ドジ」
もう一回、言われて……
でも二度目の声は何だか切なくて……。
私は両腕を家康の首に回して、隙間が何処にも無いぐらい……しがみ付く。
さっきの嵐が全部
……嘘だったみたいに。
幻だったかのように
……あっという間に姿を消していた。
静まり返った、橋の上。
髪はべったり濡れて。
着物はどっしり重くて。
でもあったかい。
「………ドジ」
三回も同じこと言われて……
さすがに、
何か言わなきゃって思って……
「だっ……て…雨で滑って…」
泣きながら子供みたいな言い訳しようとしたら、背中に回された腕が苦しいぐらい、ぎゅーってなって。
「……嘘」って。
ボソッと耳元で言われて。
後頭部に添えられた手から……
微かに、振動が伝わる。
「一瞬、ひまりが消えた…かと思った」
まるで存在を確かめるように……
家康は壊れるぐらい私をきつく抱く。
それだけで、不安や悲しみが。
一瞬で溶けていく気がして……
「一番大事なこと、伝える前に消えた、かと思って……かなり、焦った……」
心なしか少しだけ
その声が震えているように聞こえて……
家康の胸に手をそっと添えて……
引っ付けていた身体を……
ちょっとだけ隙間をつくって……
顔を上げると……
真剣な瞳が
そこにはあった。