第167章 涙色の答案用紙(31)修学旅行編
ザァ………ザッ……
ザッ…ッ……………
振り返った瞬間。
稲光が家康の姿を照らす。
大嫌いな雷鳴。
でも、そこには……
大好きな家康がいる。
同じぐらいびしょ濡れで、
着物姿のまま。
雨が染み込んだ髪。
三つ葉のヘアピンも失くして。
冷え切ってきっと青ざめてる唇。
もう前みたいに……
笑えないかもしれない。
家康が「恋」をしてくれた笑顔は
もう戻らないかもしれない。
それでも
思い出の中の『今』
この先にある『今』
『今』この瞬間の私を……。
耳から携帯を離す。
そして
履いていた草履を脱ぎ
鼻緒の切れた草履を
一緒に持って……
真っすぐに走った。
「ひまり!!」
両手を広げる家康。
滑りやすい橋の上……
それでも、
足を一生懸命に動かして……
後、一歩……
私は両手を伸ばす。
雨か涙がわからないぐらい。
私の瞳から零れ落ちた……