第166章 涙色の答案用紙(30)修学旅行編
そのことを伝えると、ひまりの背中がスッと視界から一瞬だけ消える。
丸くなってしゃがみ込む後ろ姿。
小さくなって揺れる背中。
「……っ……う、っ」
今まで、
涙を堪えていたような
息遣いが……
やっと微かな声になって、
俺の耳に届く。
今すぐ、抱き締めたくて……
俺は一歩踏み出す。
願いごとなんて一つしかない。
「俺の願い……
叶えられるの、ひまりだけだから」
そう告げて、また一歩近づく。
ひまりの笑顔が今までの俺の全部だった。だから、消えた途端。俺は自分さえも見失った。
取り戻そうとみっともないぐらい足掻いて。情けないぐらい後悔して。
大事なこと
……全部、後回しにしてた
後悔なんていくらしても、足りない。
そんな時間があるなら……
追いかけるのも、追うのもやめて。
「無理矢理、捕まえたりしない」
今の俺は……もう前とは違う。
直接、残りの想いは伝える。
「……迎えに行く。俺のお姫様を」
そこにいるように、言って……
また、一歩足を動かした瞬間。
突風が吹き、
目の前で行く手を遮るように、
走った一筋の光。
(っ!!)
空を見上げた瞬間、俺は目を疑う。
異様な光景。
離れた場所に星屑が浮かび。
頭上だけに浮かぶ渦。
そこから雷鳴がなり響く。
「ひまり!!」
走る為、携帯を
耳から離しかけた時。
「……っ、…だ、めっ」
ひまりの拒絶の言葉。
(え……)
思わず足がピタッと止まる。
小さく丸まっていた背中。
それが、ピンッと背筋が伸び……
ひまりが
ゆっくり、振り返るのが見えた。