第166章 涙色の答案用紙(30)修学旅行編
滑りそうになる手。
携帯を持つ手を、利き手に変える。
「初恋が本気の恋に変わったのは、中学の時。喧嘩して怪我した俺に、お姫様が手当てしながら泣いた後に見せた笑顔。それに、二度目の恋をした」
絶対にこの笑顔を守りたい。
幼馴染をやめて、一人の男になりたい。
(そうあの時に、強く思った)
ひまりの背中が震えだす。
周りの様子も視界に入らない。
それぐらい……真っすぐに見つめる。
「高校生になって、本気でそのお姫様が欲しくて……俺と同じ想いまで来て欲しくて、焦らして追いかけさせた。わざと、一歩前、歩いて」
そんな余裕ないくせに。
ひまりに少し触れただけで……
溢れそうになる想いを、必死に抑えた。
身体が麻痺するぐらい、
雨が容赦なく降り続く。
どんなに体温を奪われても、
ひまりへの想いだけは熱い。
「やっと、そのお姫様との距離がなくなって。浮かれた俺は、間違いを二つも犯した」
白鳥とひまりを間違え。
そして……
「壊れた笑顔を見た瞬間。それに耐えきれずに、俺は……」
腕から、全身から力が抜け落ちた。
見れなくなった。
ひまりを真っすぐに。
自分の間違いを受け止めて、
傷ついて壊れたひまりを……
全部受け止めて。
誤解を解くまで。
伝えるまで。
ひまりの想いを聞くまで……
離すわけにはいかなった。
(なのに俺は……)
携帯を持つ利き手が震え、
もう片方の手で腕を固定する。
あの時の俺には、
あの状況を受け止める器がなかった。