第166章 涙色の答案用紙(30)修学旅行編
ずっと聞きたかった声。
今日はまだ、一回も聞けてなくて。
走り続けで、破裂しそうに不規則に動く心臓を抑えながら……
橋の中間辺りで、ひまりの背中を渡りきる寸前の所で見つけ……
一度も、失うわけにはいかない。
二度と、見失うわけにはいかない。
真っ直ぐに見つめたまま。
呼吸を乱さないよう、冷静に話す。
「そこから一歩も動かないで。……話を聞いてほしい」
詰まりかける喉を抑え、暗闇の中で淡く光る背中が微かに反応する。それを見つめながら、息を軽く吸い……言葉を繋ぐ。
「……あるお姫様がくれた笑顔。それが、俺の初恋の始まりだった」
あの石碑の前で咲いた花。
あの笑顔に「恋」をした。
電話越しに聞こえた、息を呑む声。
俺は、そのまま喋り続け……
「小学校の新学期。照れ臭くて直接、渡せなかった物が……大切なお姫様の笑顔を……一瞬でも消していたことを、後から知った」
あの日おばさんの話、聞いて。
(正直、驚いた)
まさか、ひまりが俺のことを少しは意識してたとか……あの頃の俺には予想外な話。
「大切な女の子」「大切な幼馴染」
俺にとって白鳥は正直「幼馴染」だった。けど、あえてそう書いた理由は二つ。
二人が見せ合うのは予想出来た。
(ってか正直、それを期待した)
見せ合ってひまりに気づいて欲しくて……別々に渡さず白鳥に預けた。それが本音。
俺の想いの違いがわかるように。
それが一つ目の理由。
もう一つは、後からひまりに文句言われないように。白鳥はひまりにとって「大切な幼馴染」
ただの「幼馴染」なんて書いたら、
後で煩く言われるのは目に見えてたからね。
それが、結果。
ひまりを追い込んだ。