第166章 涙色の答案用紙(30)修学旅行編
赤い橋の入り口___
ーー願いごとをひとつ心で念じながら、橋を渡りきると成就する……かぁ。
ひまりの独り言のような会話。
それさえも聞き逃さないとか。
あたかも聞いてないフリして、参考書読んで。ひまりが、聞いてる?って服を引っ張るまで、知らん顔して。
「はぁ……はぁっ……」
そんな所が可愛くて堪んない癖に、俺がいつまでも素直に言わないから。
(すれ違ってばっか)
橋の入り口まで
真っしぐらに走りながら……
そんなことを考え……
あることに気づいていた。
ザッと草履で音を立て、
動き続けていた足を止める。
ゴォォォオオオ……
まるで、この空間だけを嵐が包み込むように……突風が吹き込んだ。
「ひまり!!」
名前を呼んでも、邪魔するように風、雷鳴、雨音がかき消す。
ここに来るまでに、ぼんやりと暗闇に浮かぶ黄色の着物姿のひまりが見えた。橋の中間でその姿を視界に捉えていた俺は……
焦って懐から携帯を取り出す。
さっき掛けた時は、電源が切られていた。
(俺の願い………)
そんなの最初からひとつしかない。
俺は呼吸を乱したまま……
(渡りきる前に!!)
指を動かし耳にあてる。
(繋がれっ……)
橋に一歩足を踏み入れた時。
プルルルル……
プルルルル……
呼び出し音が鳴り……
プルルルル……ッ…プッ……
「……ひまり」
「家康……」
繋がった。