第164章 涙色の答案用紙(28)修学旅行編※家康様side
白壁の外観、
瓦屋根、格子窓に朱色の暖簾。
掲げられた看板で店名を確認すると、中に足を踏み入れる。
「おこしやす。待ってたよ」
つつじさんと、この店の亭主。主人さんらしき人が出迎えてくれ、俺は会釈して靴を脱ぎ、案内された奥の部屋に進む。
「遅れてすいません」
「私は良いんだよ。それよりも、早くひまりちゃんの着物姿をねぇ?綺麗だよ、本当に」
「はい。……俺も、早く」
見たい。
その三文字は心に留め、つつじさんからたとう紙に包まれた着物を受け取ると、ご主人がいる隣の部屋の襖を開ける。
男性専用なのか、こじんまりした六畳一間。さっき、つつじさんに案内された部屋の半分もない。
(まぁ。普通に考えて、女性客のが圧倒的に多いだろうし)
部屋の隅に見えた、
戦国学園の制服と鞄。
一目で政宗のだとわかる。
お願いしますと声を掛け、白髪が印象的な主人に着物を渡す。そして俺はすぐさま制服を脱いだ。
床に広げられた、
辛子色の着物、朱色の帯。
「つつじから君の名前を聞いて、本当驚いたよ。かつての偉大な戦国武将……江戸幕府を築き上げた「徳川家康」と同じ名とは」
「あまり、意識はしていませんが。周りから、たまに……言われます」
他にも同じ学園内に、五人。
戦国武将と同じ名前がいると、着付けをして貰う間を使い、世間話がてら話す。
するとご主人は、この店に代々伝わる店名の由来を……語り出した。
「曼珠沙華……彼岸花は、天界の花とも言われていてね。おめでたいことの前兆に赤い花が降ると、言われておる」
そして続けざまに、彼岸花の花言葉に「転生」があるのを知っているかと聞かれ俺が頷くと、この店の先祖がある想いを込めて「まん珠沙華〜朱〜」付けたと……。
「この店の着物を着て、殻を打ち破り、今までの時間を悔い改めた時、天に祝って貰えるようにと」
「殻を破り、悔い改め……」
「徳川家康の名を誇りに思い、君は君の新しい歴史を刻めば良い。……この着物を着ての」
主人は「完成だ」と呟き、
ぽんぽんと俺の背中を数回叩いた。