第163章 涙色の答案用紙(27)修学旅行編
人工芝の上。
そこに二人の雫が落ち。
ゆっくりと二つの影が離れ……
赤いの鼻緒草履が、くるりと動く。
天音は、追いかけることもその場から出ることも出来ず、ポケットに手を入れ、四つ葉のヘアピンと栞を取り出すと……
庭の花壇を手入れしていた、作業員に声を掛けた。
「少しだけ、お借りしても良いですか?」
そしてこの病院内に、彼岸花が咲いている、咲く場所はないかと尋ね……
裏口の植え込みに毎年、遅咲きする彼岸花が数輪あると聞き、こっそり向かった。
すると、三本。
まっすぐ伸びた緑色の茎。
薄っすらと芽から覗く赤色。
天音はその付近をスコップで掘り、ヘアピンと栞をハンカチに包んで埋めると……
「それで、罪を閉じ込めるの?」
背後からそう声を掛けたのは、弓乃。
ひまりが心配で実は木の陰に身を潜め、二人の話を聞いていた。走り出したひまり。それを追いかけるのが遅れ、探している最中だった。
「閉じ込めるつもりは……。ただ、絶対に忘れないように。二人を傷つけた自分を、何年たっても忘れないように……」
「天音ちゃんは、それで良いかもしれない。でも……ひまりは!ひまりの……っ。傷ついた心は……っ」
弓乃は、珍しく泣き叫ぶ。今の、ひまりの心情を思うと、自分のことのように苦しく、天音に対して決して良い感情は持てなくなる。
(ずっと……教えたかった。教えてあげたかった)
家康が好きなのは、ひまりだと。
でも、本人から。
本人から直接でないと何の意味もない。
焦れったくても、傷ついて無理に笑う姿を見ても……耐えていた。ある想いを抱えても、また天音とは違う想いで見ていた弓乃。
(私が泣いてる場合じゃない!)
着物を汚さないよう、
袖を捲り自分の手で涙を荒く拭う。
そしてひまりを探す為、
登りはじめた夕日に向かって走り出した。
天音は、スコップで土を掬う。
(今日は、思うはあなた一人の日)
眩しい二人を、目を細めながら見ていた。
それを壊した罪は重い。
弓乃と自分の違いが、
少しわかった気がして……
こんもりと盛られた土に、ポタポと雨を染み込ませた。