第162章 涙色の答案用紙(26)修学旅行編
ベットから起き上がる白鳥。
俺は時計の針を見て、鞄を肩にかける。
「先生には連絡しといた」
「また迷惑かけて、ごめんね」
「人として当たり前のことしただけ」
目の前で意識を失われたら、救急車を呼ぶしか手立てがない。俺は医者でもない。ただの医者志望。
ようやく、見えた。
「いっちゃん。最後にこれだけ聞かせて」
どうして、お医者さんになりたいと思ったの?
取手にかけた手が止まる。
俺は振り返らず
半分ぐらい扉を開けると……
「膝擦り剥いて、泣いてる女の子が笑ったから」
思わず口元が緩む。
俺が傷を見るから痛いんだって、近くに咲いてた花で傷口隠したら……
「魔法みたいって、花みたいに笑った。それがきっかけ」
「……凄いね。今のいっちゃんは……こんな言い方して良いのかわからないけど」
その子で出来てるみたい。
一呼吸おいた後、白鳥は蚊が泣くような、か細い声でそう言った。
「あながち。間違ってないんじゃない」
現にあの手紙も……。
現にひまりが見えなくなった瞬間。
自分の全部、見失った。
病院から出て、携帯を取り出す。
シャラッと音を立てる、
イルカのストラップ。
着信履歴が数件。
俺は政宗に電話をかけた。
「話がある」
「なら、呉服屋で着替えてから来い」
何でもつつじさんが、俺に着せたい着物があるとかで、待ってくれているらしい。わかった。と、だけ返事をして電話を切る。
大分前の着信履歴。
そこにひまりの名前を見つけ……
鳴らそうかと迷う指。
俺は携帯をしまうと、
呉服屋へと向かった。
家康が病院から出た頃。
天音は、看護婦に許可を貰う。
「心音も落ち着いたみたいね。念の為、今夜は入院して貰うけど庭に出て貰う程度なら、大丈夫よ」
「ありがとうございます」
天音は、鞄の中から携帯とピンク色の封筒を取り出した。