第162章 涙色の答案用紙(26)修学旅行編
勢いに負けて、よろけた足元。
履きなれない草履で滑り、私はその場で尻餅をついた。
それは、女の子も同じで……
「「いたたっ……」」
「大丈夫?大丈夫ですか?」
黄色のランドセルを背負った、
もう一人の女の子。
見た感じ小学校高学年ぐらい。
ランドセルを背負っているところを見ると、学校帰りかな?とか、呑気に考えながら私は立ち上がる。
「ごめんなさい」
「ううん。怪我はしてない?」
そう尋ねると、私とぶつかった女の子は立ち上がり、元気良く返事をしてくれた。
「いいの?願掛け途中でやめて?」
「うん!やっぱり、雨の日にする!効果が上がるって!おばぁちゃんが教えてくれたから!」
女の子はピンク色のランドセルをピョンと背負い直すと、得意げに笑った。
私はその姿と自分の小学生時代が重なり……「願掛けは雨の日のが良いの?」と、つい会話に参加。
すると女の子二人は顔を見合わせ、阿吽の呼吸のように、交互に声を出して地元の人々の間で噂されている話を教えてくれる。
「雨の夜は、特に良いんだって!ここはね……」
「後ね、渡りきる前に振り返るとね!……」
二人は鉄砲みたいに
ぽんぽん話をした最後に……
「「ね〜〜っ!」」
顔を見合わせて笑う。
「ふふっ。そうなんだ!なら、二人にはどうしても叶えたいお願いごとあるんだね?」
何気なくそう聞くと、二人はボンッ!と音がなりそうな程、顔を赤くして……照れ臭そうにもじもじ。
(可愛いなぁ。きっと恋のお願いごとなのかな?)
そう思っていると二人は突然、私の所に近づいてきて、まるで屈んでと言ってるみたいに、チョイチョイと手を動かした。
私は着物を汚さないように、しゃがむと……
二人は両側にきて、耳元で内緒話をして……
全く同じ男の子の名前を言った。
「負けないよ!」
「私もだよ」
お姉ちゃんまたね!と、まるでまた近々会えるような口ぶりで二人は、走り去って行く。
遠ざかる……
ピンク色のランドセル。
黄色のランドセル。
私は、その背中を暫く見つめた後。
橋の前から離れた。