第161章 涙色の答案用紙(25)修学旅行編
開花までいかないが、
早咲きした彼岸花。
それを横目に坂を下り、市バスのバス停まであと僅か数分という時。
「いっちゃん。彼岸花の花言葉、知ってる?」
「花言葉?……確か、情熱、独立、再会、あきらめ、転生……あと、忘れた」
頭の引き出しを開けながら、声に出す。
すると、
後ろを歩く白鳥は、凄いねと言い。俺は振り返らず前を向いたまま、褒めらても大して嬉しいわけでもなく「どうも」と、だけ返す。
花言葉。
別に興味はないけど、草花か薬草の図鑑で確かチラッと見た。その程度の記憶力と知識。
「後はね……悲しい思い出、思うはあなた一人」
「へぇ……。で?何か関係あるの?」
「今日は、思うはあなた一人の日。だから」
不意にグイッとシャツを掴まれ、俺は振り返る。すると、いつの間にか数歩離れていた白鳥が、そこに。
今にも泣きそうな顔で立っていた。
「ちゃんと、言わせて欲しい」
今も好きだと言われ、俺は口を固く一度結び……ゆっくり、開く。
「俺がひまり以外、見えてないのわかった上で言うわけ?」
「……そうだよ。でも、言わないとわからなかったでしょ?私が今も、いっちゃんのこと好きだって」
「それは……」
俺は視線を横に逸らす。
正直、もう諦めているだろうとは思っていた。はっきりとは断らなかったが、新学期のあの夜、突き放したつもりで……
「だから、ちゃんと返事して欲しい」
今の俺の気持ちを聞かせて欲しいと、
涙を堪えるような声で言われ……
スッと視線を戻して、白鳥を見る。
そして俺は、口を開き自分でも驚く。
出てきた言葉は……
白鳥への返事じゃなく。
ただ、ひまりへの想いだった。