第161章 涙色の答案用紙(25)修学旅行編
『修学旅行二日目』の朝___
気分とは正反対に、
嘘みたいに晴れた青空。
ホテルから出て、市バスに乗り、昨日貰ったメモを見ながら京都の町を、私達は歩き……一軒の店の前で立ち止まる。
老舗『まん珠沙華〜朱〜」
「おこしやす。さぁ、中に」
「おや?三人だけかい?」
出迎えてくれたのは、秋らしい色味の着物に身を包んだつつじさんと、同じ色味の羽織を着た優しそうなご主人。
「すいません。後の二人は、昼頃にはお邪魔すると思いますので」
私が頭を下げると、
つつじさんは頷き立ち上がる。
「三人だけ先にお世話になります!」
「やっぱ俺も着るのかよ」
当たり前よ!ゆっちゃんは渋る政宗の耳をグイッと摘んで、さぁ、こちらへ……足袋を畳の上で軽く滑らせ、つつじさんとご主人は奥の部屋へと案内してくれる。
「素敵なお店ですね」
「この辺りじゃ、店構えが一番古いが……先祖代々受け継がれた大事な店だよ」
白髪を揺らして笑う主人さん。
もっとお堅い感じの人をイメージしていた。
呉服屋さんってだけで、ついそんな印象を持ってしまったのもあるけど……もしかしたらつつじさんの幼馴染の方が、頑固な人だったって。北海道の時に、聞いたからかな?
(家康は頑固というより、天邪鬼だけど……ね)
今頃、天音ちゃんと……。
私は慌ててふるふる首を振り、つつじさんとの馴れ初めを語るご主人に、耳を集中させる。
「家内とは、北海道の友人の所に訪れた時にーーー………」
着物の文化、京都歴史。次々に色んな話をしてくれるご主人。私は、相槌を打ち、時折、質問したり。
「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)って、彼岸花の別名なんですか?」
「曼珠沙華は天界の花とも呼ばれ、おめでたいことが起こる前兆として、天上から赤い花が降ってくると。仏教の経典からーーー……」
つい夢中になって話し込んでしまい、つつじさんに呼ばれる頃には、すっかりご主人さんと打ち解けていた。