第160章 涙色の答案用紙(24)
一瞬、頭がぼやっとして。
もやついて、霧がかかって……
天音ちゃんが頭を下げて、声を切らすほど……何で私に謝っているのかが、分からなくて。
ただ朧げに、
差し出されたモノを見ていると……
ぐるぐる回って、止まった。
失くしたと思っていた、
トリートメント。
最初は、何処かで拾ってくれて預かってくれてたのかな?って、思ったけど……天音ちゃんの様子を見た限り、それは違うのがわかって……
新学期のあの日。
明智先生は、確かに天音ちゃんから私と同じ香りがしたと、保健室で話した内容が蘇る。
「天音ちゃんが……ずっと、持って…た……の?」
「本当にご、めんね。……ごめんな…っさい…」
盗んだの?とは、聞けない。
でも、結果的にはそうゆう事になってしまう。震える声。何で?どうして?と、聞いても……
ただ、一日だけ私になりたかった。
そう言われ、
まだ、状況に置いてけぼりの頭。
「何で……?トリートメントなら、言ってくれたら、いくらでも……」
貸したよ?
そう言うのが精一杯で。
何かがガラガラと砕けて、壊れていく。
「酷いことして…っ。最低なことして……。自覚してる……。だから、悲しい思い出にしなきゃ、いけないの……っ」
天音ちゃんは心臓を押さえながら、今じゃなくて、明日。明日、必ず、全部話すからって。
ショックでトリートメントを受け取る手が、震える。
怒りの感情は不思議と降りてこない。
ただ、ショックで……真っ白。
「明日……じゃないと、ダメなの?」
「もっと……私には、罰が必要だから」
明日はもっと。
暗い影に縁取られたような泣き顔。
それとは真逆の芯のある声。
私はそれ以上、何も言えなくて。
透明のボトルを握りしめたまま。
泣くことも、怒ることも出来なくて。
天音ちゃんの髪から、四つ葉が消えていることにも気づかなかった。