第160章 涙色の答案用紙(24)
外に繋がる石段。
ひまりが去った後。
それを真ん中どころまで上り、天音は早咲きを始めた、彼岸花をただじっと見つめる。
真っ黒な夜、真っ赤な花。
一見、対照的に見えるがその二つが繰り出す光景は美しい。
暗闇が有るからこそ、
月はより一層引き立つ。
「悪いな。立ち聞きするつもりは、なかった」
「……本当は、もっと大事なもの返さないといけない」
だから、明日……
天音は、制服の上に羽織っていた上着のポケットから、ピンク色の封筒を取り出す。
「何で、わざわざこんな日に。もっと早くにか、遅くにするとか考えなかったのか?」
「……何度も謝ろうとしたんだけど。タイミング逃して……そしたら、休日に。いっちゃんに、凄く怒られたの……」
ーー俺もひまりを傷つけた。けど、物を盗るのとは話が別。ちゃんと謝って、返して来い!
天音は、初めて目を合わせてくれた。と、その時のことを話す。
「ひまりちゃんの大切な思い出を、私は二度も壊してしまった。だから、思い出を作りたかった修学旅行を私は……」
彼岸花の茎をスッと指で撫で、天音はピンク色の封筒を再びしまう。
まだ、躊躇っていた。
同じぐらいひまりにも、辛い想いをさせることに。
でも、ある想い抱え。
あえて、明日にしたのだ。
もう二度と開かないぐらい、固く口を閉ざした天音。政宗は、肩を竦めポケットに両手を突っ込むと、ホテルの中へと戻っていった。