第157章 涙色の答案用紙(21)修学旅行編
そんな話を信長達がしているとも知らず、ひまり達は三つの筧を通ってしたたり落ちる滝水。その細い筋が流れる前でどれを飲むか悩んでいた。
「政宗はどう考えても、学力でしょ?」
「お前は、延命長寿は飲まなくて良さそうだな?」
唯一の取り柄だろ?と政宗は、弓乃を茶化す。ひまりは二人のやり取りに、クスクス笑い……
(私は、どれにしようかな)
柄杓を片手に悩む。
右、健康。中、恋愛。左、学問。
実際に飲むのは滝の内側から手を伸ばすことになるので、順番は左右逆になる。三つの水を全部飲むのは欲が深い。ご利益がなくなるとも、言われていた。
「ちょと、政宗!何、真ん中飲んでんのよ!」
「ばぁか!今、俺には一番必要なんだよ」
家康は一瞬、眉を潜め騒ぐ二人の前をスッと通ると……健康の滝水を掬い一気に飲み干す。勉学は長けている為、必然的に恋愛か健康かの二択になり……迷わず選んだ。
元々、健康志向なのを知っているひまりは、家康らしいなと心の中で呟いた後、天音にどうする?と、尋ね自分も学力か恋愛かで迷いキョロキョロと首を動かす。
「私はいっちゃんと同じかな」
そう言って力なく笑う天音に、ひまりはハッとして慌てて謝った。心臓病を患い、近々、大きな手術を控えている天音。特に深い意味はなかったが、もしかしたら失礼なことを聞いてしまったのかと思い、ひまりは肩をシュンと落とす。
「気にしないで。出来れば、全部飲みたいぐらいだから……ひまりちゃんは、どれにするの?」
「私は、学力にしようかな?今度、中間テストあるしね!」
ひまりは、心の内を隠すように笑いゴクリと一口で飲む。家康は、そんな様子を横目に見ながら、柄杓を元の場所に置いた。