第156章 涙色の答案用紙(20)修学旅行編
そんな家康の斜め後ろ。
光秀の隣で、天音は悩ましげに何かが抜け落ち、それでも少しばかり穏やかな笑みを浮かべると……
「珍しいな。良いことでもあったのか?」
光秀は声を掛ける。
保健室に訪れる度、暗い表情をしていた天音。昨夜から自分の中で、何かが変わりつつあった。
「はい。……修学旅行、私にとって一番の思い出になりそうです」
天音はそう意味深な言葉を言いながら、膝に乗せていた学生鞄をぎゅっと自分の身体に引き寄せ、微笑む。
バスは京都市内に入り……
「う〜ん。何から食べようかな?」
抹茶アイス!八つ橋!お団子!あとは〜、ひまりは次から次へと名物を声に出しながら、思い浮かべていた。
「お前なぁ。そんな細え体して、そんなに食えるのかよ」
「スイーツなら、任せて!」
ひまりは本調子とまではいかないが、それなりの明るい声を上げ、得意げに笑うとバスの窓から景色を眺め……
(沢山、思い出。作りたいな……)
そう心で呟くと、コツンと窓におでこを預け……徐々に緑から秋色へと変わりつつある街路樹を瞳に移した。
川辺に咲きはじめた赤い彼岸花。
連日雨が続き低温だった理由もあってか、開花が例年より早まる傾向が見えた……
ひまりはある想いを抱え、
「貴様ら、浮かれて歴史建造物を壊すなよ?そんな馬鹿な真似をしたら……」
「「血祭りです!!」」
「フンッ。肝に銘じとけ」
「「「あははっ……」」」
バスの車内に響く信長の喝と、それに慣れた生徒の笑い声を横耳に挟みながら、斜め後ろに座る家康の気配を背に感じ取り……
目を閉じた。