第155章 涙色の答案用紙(19)
家に入ると、
栗の香ばしい匂いが鼻に届く。
(そう言えば、栗ご飯炊くとか張り切ってたっけ)
俺は、玄関で靴を脱ぐ。
ただいまとボソッと独り言のように言うと、ワサビが走ってきて足元に戯れつく。
「こら、玄関に降りるな。足が汚れる」
ヒョイと抱けば、尻尾を左右に凄い勢いで振り舌を俺の顔に向かって伸ばしてくる。
(最近、ひまりが来ないから、寂しいんだろうな)
それは俺もだけど。
「雷鳴りそうだけど、あんまり騒がないでよ」
「クゥーン……」
意味が通じたのか、ワサビは不安げな声で一つ鳴くと、大きな瞳を潤ませた。
俺はワサビを床に下ろして、濡れた服を着替えに部屋に向かう。
勉強机の上に幸村から預かった封筒を置き、クローゼットを開け適当にTシャツを取り出す。
窓の外に走る光。
数秒後に、
鳴り響く切り裂くような雷音。
(……まだ、政宗の所に)
さっき通りがかった時。
部屋のカーテンはまだ開いていた。
雷が小さい頃から苦手なひまりは、部屋にいれば光が見えないように閉めるはず。
嫌な想像が頭に浮かび、
ーー食っても、文句言うなよ。
あの台詞が不安を煽る。
無鉄砲な性格の政宗。
でも、ひまりを泣かせることはしない。
それだけは普段の様子からわかる。
問題は……
今の、ひまりの気持ち。
(く、そっ……)
俺はパーカーを脱ぎ捨て、ベットに座り壁に背中を付ける。
そして、暫く経った時。
コンコンッ。
扉から数回ノックが届く。
「……何?」
「あ、あの……栗ご飯炊けたから、いっちゃん呼んで来るように言われて…っ…」
白鳥は何故かそわついた態度で、視線を横に外しながら話す。
俺はその様子に訝しげに目を細めると、頬を赤らめ「着替え中にごめんね」と、ポツリ呟くのが聞こえ……
上半身何も身につけていないのを、思い出す。
(目の前にいるのがひまりなら、ほんと良いんだけど)
俺は、スッと一歩横に移動すると……
「……話がある」
部屋の中に引き入れた。