第155章 涙色の答案用紙(19)
(家康様視点)
広場の時計台。
その上の空が昼間より色濃く染まり、ベンチにポツポツとシミが出来る。
あの話を聞いてから、雨が降ると胸が騒ぐ。連日続く悪天候が、ひまりの心に影響してるかと思うと……
居ても立っても居られない。
(必ず、俺が守る)
あんなヘアピン一つで、何処まで笑顔が戻るかはわかんないけど。一つずつ、必ず取り戻す。これ以上、ひまりを不安にさせたくない。
「とにかくよ!次、会う時はもうちょいマシな話。聞かせろよ」
「で?結局、何しに呼びつけたわけ?ただ、説教しにきたとか言ったら、本気で怒るよ」
「ったく。相変わらず、捻くれてるなお前。……まぁ、俺もすっかり忘れてたけどな!ほら、コレ……ひまりに渡しといてくれ」
幸村は斜め提げ鞄から白い封筒を取り出すと、俺の前に突き出す。
何これ?
と、眉間シワを寄せれば、ラブレターだとか意味のわかんないこと言って、屈託ない顔で幸村は笑った。
「中身は内緒だ。見るなよ?」
「そんな、趣味ないから」
「嘘つけ。お前、一回ひまり宛のラブレター捨てたことあったろ?」
「中身は見てないし。それと、人聞き悪いこと言わないでくれる?俺の下駄箱に間違って入れたヤツが悪い」
しかも捨ててない。
落し物を入れる箱に入れただけ。
そう付け加え、その封筒を受け取る。
「大会の時に頼まれたヤツって、言えばわかるからよ!頼んだぜ」
幸村は、ヒラヒラと手を振りポツポツ雨が大粒に変わる前に走り出す。
俺は封筒を一度だけ裏向ける。
重さ的に、本当に手紙しか入ってなさそう。
(大会の時に、何にも言ってなかったけど……)
ヘアピンはこっそり壊れてなかったフリして、渡したけど。さすがにコレは直接渡さないと、不味いかも。
そう思い、濡れないようにパーカーの前ポケットにしまうと……
俺も本降りになる前に、駅へと急いだ。