第153章 涙色の答案用紙(17)
政宗は私を背中に庇うように隠すと、男性客の頭にコップの水を間髪入れず、注いだ。
「あぁ!?客に何してんだよ!?」
「客側にもマナーぐらいあるだろ?後な、うちの店自慢の店員にイチャモンつけるな」
(え……自慢って私のこと?まだ二、三時間バイトしただけなのに)
ドスの効いた政宗の声が、続く。
「勘定はいらねえよ。他のお客様の邪魔だ。帰れ」
トドメをさすようにそう言うと、男性客には舌打ちをしてバツが悪そうに、席を立ち、出口に向かう。女の人もそれに続くように鞄を肩に下げると、ヒールをカツカツ鳴らしながら店から出て行った。
政宗は赤ちゃんを抱いた奥様方を向いて、ごゆっくりと営業用のスマイルを見せ、私の頭を軽く一つ叩くと……
「よく言った。良い対応だ」
怒られるどころか逆に褒めてくれる。もう暫くしたら準備中に入るから、頼むと言って厨房に戻って行く。
店内から最後のお客さんが帰る頃。
準備中の看板を出しに外に出ると、
空はまた真っ暗になっていて……
ゴロゴロ……
大嫌いな雷が鳴り始めた。
「何だ?また、雨か?」
「……最近、天気が不安定だね」
修学旅行大丈夫かな?
折角だから、晴れて欲しい。
「まぁ、バイクは取って来たからな。一応、暖簾しまっとくか」
政宗は軽々と赤い暖簾を持つと、店内に戻っていく。
私もその後を追い、テーブルの後片付けを始めた。
降り出した雨。
(家康……今頃、天音ちゃんと栗ご飯炊けるの、待ってるのかな……)
おばちゃんのお誘いを思い出し、キッチンに仲良く立つ二人を想像して、胸が痛くなる。
「それ終わったら、こっち来いよ。何か、作ってやる」
気がつけば、もう夕方。
私は政宗に返事をして、掃除道具を一式元の場所に戻した。