第153章 涙色の答案用紙(17)
車の窓から景色を眺める。
景色って言っても、
決して煌びやかな街並みじゃない。
雨が降る灰色の世界を、
色とりどりの傘が行き交う
……そんな景色。
水玉や、ストライプ柄。
無色透明の傘。
キャラクターもの。
小さな真っ赤な傘、真っ黒な大きな傘。
水滴がついたガラス越しに、
ぼんやりそれを眺めていた。
「……お前らしくないな」
「え?……何がですか?」
「最近の様子だ。まるで、笑い方を忘れたように表情が硬い」
私は離していた背中をゆっくりとシートに預け、ハンドルを握る明智先生をチラッと見て、正面を向く。いつもの揶揄うような口調じゃなくて、ひっそりとした声でそう言われ……
返答に困った。
自分でも自覚していたから。
私は右手を開く。
三つ葉のヘアピン。
壊れたはずなのに、
何故か傷一つなく戻ってきた。
「先生……その人、本当に裏庭に落ちてたって言ってたんですか?」
「……俺にはそう言っていた」
「そうですか……」
ちゃんと目で見て確かめた訳じゃない。
でも、音と靴底の感触ではあの時にこのヘアピンは壊れた筈……
明智先生の話だと私が眠っている間に、届けに来た。と、だけ教えてくれた。
でも、他にも気になる点がいくつかあって……
「何で私の物だって……外は雨だって降って……それに、保健室にいることも……」
私は不思議でたまらなかった。
「クッ。お前に好意でも寄せているのではないか?」
先生は、一瞬だけ私の方に向いて喉を鳴らした。
「からかわないで下さい」
「毎日見飽きるぐらい見ていたら、髪に付けていたことぐらい覚えていても、不思議ではない」
「でも、これを付けていたのは夏休み中と……新学期の日。……だけです」
弓道部の皆なら知っているけど、それなら先生も届けに来てくれた人の顔を見ればわかるはず。
でも、明智先生はある男子生徒が届けに来たとしか……。