第151章 涙色の答案用紙(15)
ふわふわした猫っ毛の髪。
顔や頬を擽って少しずつ下に降りてく。それだけで敏感に体は反応して、少しずつ抵抗していた力が弱まり……
頭がクラクラしてくる。
「俺の痕しか、付けなくていい」
耳にかかる声。
政宗のシルシが付いてない左首筋に、家康は場所を決めるみたいにぺろっと一度だけ舐めて、そこに唇を寄せ強く吸い付く。
「ひまり」
まるで何かに取り憑かれたみたい。家康は私の名前を何度も呼んで、拘束を解いた手をブラウスの上に滑らせ……
ぼやけた視界。
家康が、どんな顔してるのかも。
何で、こんな事をするのかも。
全然
見えない。
何にも見えない。
でも、一番見えないのは……
嫌なはずなのに嫌じゃない、自分。
(それが、一番苦しい……)
ぎゅっと目を瞑れば、
目尻から涙がスッと横に流れて……
(でも…っ…こんなの、絶対に間違ってる…!)
プチンッと小さく音を立て、
制服のリボンを外された瞬間……
ドンッ!
両手に思いっきり力を入れて、家康の身体を押し返した。
「な、んで……っ……」
目も胸も、頭も心も痛い。
私のこと
幼馴染としか思ってないんでしょ?
身近にいるから?
だから、こうゆう事ばっかり……
熱で荒くなった息。
涙で上手くできない呼吸。
俯けば、革製のソファの上にポタポタ落ちた涙が弾きながら何処かに消える。
「……何で?なら、何で…俺の気持ち」
家康は絞り出すような声をあげた後、目を数秒閉じる。
そして、正気を取り戻したみたいに、スッと身体を離した。
「ごめん……」
頬の涙に向かって伸びてくる、指先。
私はそれをパシッと払いのけて、首元から落ちかけたリボンを握りしめ……
「もう、全然わかんないよっ!」
そう叫んだ後、
唇が麻痺するぐらい強く噛んだ。
ソファから降りて、足元の鞄を掴む。
家康の顔も見ずに、
呼び止められても振り向かずに……
部屋から飛び出した。