第151章 涙色の答案用紙(15)
そこからは、まるでスローモーションを見ているような……映像。
顔を正面に戻せば、
ペンを置いて立ち上がる家康。
追いついた頭。
何を聞かれたのかを理解した瞬間。
政宗が付けたシルシがある場所を、手の平で覆い隠す。
「こ、これは……っ」
焦る声。家康に見られたことが……堪らなく嫌な自分がいて戸惑う。
「何で……そんな簡単に…!」
家康の怒った声。
でも……
何故か苦しそうな声にも聞こえて……
ビクッと私は肩を鳴らして、近づいてきた家康を見上げた瞬間……
肩をそっと押され、
視界が反転して……
背中が沈む。
「行くな……政宗の所なんか行かなくていい」
やっと、
状況に頭が追いついたら……
家康に押し倒されていて……
「や、やめ……っ」
両手首を掴まれて、
家康の息が首筋にかかる。
何で…っ…。
何が起こって……っ…。
何でこんなことするの…っ…。
「ひまり……」
耳元で囁かれた名前。
まるで私の名前じゃないみたい。
苦しげで、切なくて、でも身体中を痺れさすような男の子じゃなくて、男の人の声。
「絶対、行かせない……」
「な、んの話を……やだっ!」
(天音ちゃんが好きなんじゃないの…?何で何でっ…!)
凄い力で身体の自由を奪われて、ただ涙が流れる。怖いとかそんな感情より先に、苦しさが襲いかかってくる。
嫌じゃない自分がどこかにいる。
こんなの間違ってるのに。
「家康!やめ……んっ…!」
キスが鎖骨や耳に次々に降りてくる。
その熱に徐々に犯され、余計にそれが私の自由を奪っていく。
前にも一度、こんな事があった。こんな状況の中、思い出す余裕なんか無いはずなのに……思い出してしまう。
家康の部屋。
停電して、暫くしてから電気が点いた時……
目の前に痛々しく歪んだ家康の顔。
ーー何で、俺の気持ちわかんないの?
あの問いかけが蘇る。
全然わからなかった。でも、今はあの時以上に家康の気持ちがわからない。