第151章 涙色の答案用紙(15)
帰りは二人っきり。
不安な自分と嬉しい自分。
昨日の放課後から天音ちゃんは、一旦、家の方に戻ったみたいで今日は学校を休んでるって家康が誰かに朝、言ってたのを聞いた。
四つ葉のヘアピン。
それを見てない所為か大分、心も落ち着いてまだぎこちないけど、それでも少しは話を出来るようにまでなって……
後もう一歩。
きっと、
また前みたいな関係に……戻れるはず。
そう思ってたのに。
あまり普段使われることのない、個室。
十畳ぐらいの省スペースに、二人がけのソファが向かい合わせに一つずつと、真ん中に机があるだけ。
後は、お茶が飲めるようにポットと、コップを置く小さな台。壁にはカレンダーと、道場に飾れなくなった古い賞状が数枚。
「今度の大会は会場が遠方の分、必要経費が例年より増える。問題は出場しない応援者を自費にするか、バスを出すか……」
「後、部員の希望で下帯を統一したいって案が出てて、チームカラーみたいな感じで」
予算を立ててる内に、普通の会話が交わせるまで気が付いたら戻っていた。意見をちゃんと、言い合わないといけないのと……
(この時間が、嬉しい自分が何処かにいる)
さんざん避けといて、本当に都合いいと思う。向かい合わせに座った家康。顎に片腕立てながら、真剣な面持ちでスラスラと予算表に数字を綴っていく。
私は手元を見ては時折、家康の顔を見て……胸を気づかれないように押さえた。
「ひまり。女子の方で、何か不足してる物あったら言って」
「え!あ……えっと、特に皆んな何も言ってなかったかな。私も、特にこれといって気にならなかったよ?」
急に目が合いそうになって、私は咄嗟に横を向く。はらっと頬にかかる髪。それを手で払いながら、また前を向くと……
「それ。……誰に付けられたの」
狭い空間に、家康の低い声が響いた。