第151章 涙色の答案用紙(15)
次の日もまた、雨。
でも、昨日よりは小雨だったから部活は休みにはならず、新学期入って一発目の練習再開日。
そして……
「……練習終わり、部費の予算案立てるから」
「……うん。着替えたら行くね」
練習中。
弓道着姿の家康が、秋季大会に向けて打ち合わせをするとだけ言いに来てくれた。部長と副部長の立場上、大切なこと。気まずいからって、家康一人に任せるとかは、絶対にしたくない。
私が俯いて返事をすると、
家康は少し間をあけてから……
「帰り遅くなるだろうから……」
少し落ちた声トーン。
だから、一緒に帰ろうと誘われて……
(政宗に待ってもらうのは悪いよね……)
一人で帰ろうと思ったけど、多分それだと政宗を待たせちゃうことになり兼ねない。
ただでさえ変質者が最近増えて夜道の一人歩きは、避けるようにってこの前、プリント配られたばかり。大丈夫って言っても、きっと待ってくれてる。
「なら……後で、政宗に言ってくるね」
「そうして」
家康の柔らかい声。それを久々に聞いて、私は思わず顔を上げて、何日かぶりに目を合わせる。
いつもの憂鬱そう表情。
でも、その中に優しさもあって少し緊張を解いたようにも見えた。
「れ、練習戻るね!」
胸がそれだけで反応するのを感じて、また何かが込み上がる前に、そう答えた時。
視界に、
家康の手がゆっくり動くのが見えて……
思わず身構えるように頭を後ろに引くと、頬の直前で止まった。
「着替え、ゆっくりで良いから。待ってる」
家康は何事もなかったように手を下ろして、練習に戻って行く。
「部長、ちょっと型見てもらって良いですか?」
「……すぐに行く。弓だけ、出しといて」
秀吉先輩と違って、厳しいとか愛想が悪いとか、皆んな時々、ブーブー文句を言ってるみたいだけど……教え方も的確で、配慮もちゃんと出来る家康は、男子部員皆んなの憧れでもあった。