第150章 涙色の答案用紙(14)※家康様side
普段一人なら、確実にそれほどかからない帰宅路。今は、信号待ちもそれほど苦にならない。
(……髪の香りもリップも違った)
昨日のひまりも、今日のひまりも。日を追うごとに姿が変わっていく。
白鳥もその姿に動揺してるのか、まだ謝ってないみたいだし。俺も「おはよ」しか言えないとか。小学生でも、もうちょっとマシなこと言えそう。
(はぁ……。折り畳み傘忘れてると思ったら、こんな時に限って持ってるとか)
白鳥の件を今朝聞き、帰りはひまりを誘うつもりで……。
晴れた朝。バカみたいに折り畳み傘じゃなくて、普通の傘を持って登校。
昨夜、家に行ったけど出て来ては貰えなかった。その代わりに届いた一件のメール。
これからは一人か政宗と登下校するって内容届いて、かなり焦ってんのにこっちは。
気づいたら指が勝手に、『わかった』とか返信してたし……。
はぁー……。
長く吐いた息。
額に手を当て、家までの距離が近づいた時。
視界に捉えた
ピンク色の傘。
向かい合わせに立つ。
二つの影。
それを横から見て……
「ひまり……」
無意識呼んでいた。
俺におかえりとだけ言って目も合わせず、政宗に傘だけ押し付けるようにしてパシャと雨水を跳ねさせながら、ひまりは家の中に消える。
「横から見るのは予想以上に、堪えるだろ?」
「…………」
ポタポタ……。
緩まった雨。
政宗はひまりの傘を肩にかけ、
挑発するような目を向ける。
俺も負けじと睨み返す。
「俺はひまりしか、見てないから」
横からだろうが。
後ろからだろうが。
真っ直ぐだろうが。
「その割には、大分…見失ってんじゃねえか」
政宗は、足元が濡れようがお構いなし。
バシャバシャと音を立て、俺の前まで来る。
「休日、俺の店来る予定だからな」
食っても、文句言うなよ。
態とらしく耳障りに掠めた声。
二つの傘が、
地面に投げるように落ちる。
「ひまりは、渡さない」
胸倉を掴んだのも離したのも、
どっちが先かわからない。