第150章 涙色の答案用紙(14)※家康様side
じとじと降る秋雨。
天気予報通りの暗いもやついた空を見上げ、昇降口で緑色の傘を開く。
校門前に止まる一台の車。
運転席から降りて来た人に、俺は軽く会釈する。自分の父親とそう年も変わらない、白鳥の父親だ。
会うのは七年ぶり。
かろうじてある面影。
堅苦しいそうなスーツ姿。
俺の記憶にピタリとそれだけが当てはまった。
「世話になってるね。徳川さんの言葉に甘えてしまって、すまない」
「いえ。父も、修学旅行明けには病室の手配が出来るからと。お気になさらず」
「天音。母さんともう一度話しをするから、お前も同席しなさい」
白鳥は頷くと黄色の水玉模様の傘を畳み、車に乗り込む。
父さんの話によれば、
ーー海外赴任?
ーーあぁ。だから、別居を検討していると言っていた。あまり環境の良くない場所らしい。天音ちゃんの手術の経過次第で、決めるとは言っていたが……奥さんが大分悩んでいるみたいだ。
出張とは違い、赴任。病室でちょくちょく見かけた白鳥の両親。家族仲が良かったのは何となく覚えてる。
ーーどちらになるかは、俺たちがどうこう言える立場じゃない。手術も控え不安な時期だろう。修学旅行に良い思い出を作らせてやってくれ。
(修学旅行……このまま行けば間違いなく最悪になりそうだけど)
全員にとって。
教室の窓から見た。
花柄のピンク色の傘。
すぐに、ひまりだとわかった。
その傘を政宗が持ってるの見た瞬間。
頭がおかしくなるかと思った。
嫉妬とかそんな感情。
普通に軽々と超えていた。
「君も家まで送らせてくれ」
「いえ、大丈夫です。帰りに寄る所がありますので」
適当な理由をつけて丁重に断る。白鳥の父親はならせめてそこまでと、暫く渋っていたが、俺は一礼だけして歩き始めた。