第149章 涙色の答案用紙(13)
白い白衣。
それが履いているスカートの裾の隣で、ヒラヒラと揺れるのが見えた。
「髪の香り、なぜ変えた」
「え……。何故って……そ、それより先生!この体勢だと作業がやり難いですけどっ」
立ったまま長机で、帰りのホームルームで配布するプリントを整理していた私。急に後ろから先生に肩を抱かれ、身動きが取り難い。
「お前にこの香りは似合わない」
頭に明智先生の吐息がかかる。
似合わないって言われたショックより、香りの変化に気づかれたことに驚いてしまう。
まるで、私の一部だったみたいに言われている気がして……
「秋らしくて良いかなって……」
手に持っていたプリントを束ねながら、新学期だから、ちょっと気分転換したかっただけです。と、答えると先生は、静かに私の肩に回していた手を離す。
「お前、白鳥に貸したのか?」
「え?何をですか?」
白鳥って天音ちゃんだよね?
少し考えた後、私は振り返って、何も貸した覚えはないですけど?と、首をかしげる。
すると、
先生は顎に綺麗な指を添えて……
「新学期の日。手洗いに行くと言ってから、なかなか戻ってこなくてな」
新学期。
ズキリと痛む胸を思わず掴んでしまう。戻ってこなかったのは、家康と石碑にいたからだと知っている私は、何も言えず唇を噛み締めた。
(でも、それとさっきの質問と、どう繋がりが……)
そう思っていたら、先生は話を続けて……暫くしてから、家康と天音ちゃんが一緒に戻って来たと……
「家康に、白鳥を自分の家まで送って貰えないかと頼まれた。彼奴はそのまま、蒼白な顔をして走り去って……」
「家康が……?」
「尋常じゃない慌てようだったからな。まぁ、俺が言いたいのは香りのことだ」
先生は車で送り届ける時に、天音ちゃんの髪から、前の私と同じ香りがしたって。だから、少し気になっただけだと話してくれた。