第149章 涙色の答案用紙(13)
先生は動けずにそのまま、ペタリと座り込む私の元に来て手を差し出してくれる。
「あ、あの……今……」
おずおず手を伸ばし立ち上がると、盗み聞きしてしまった罪悪感から上手く言葉が出てこない。
気になることがあり過ぎて、何を聞いていいのかもわからず、聞いてもいいのかもわからず、ただ俯いて押し黙っていると……
先生のあったかい手が、頬を包んでくれる。
「前にも言ったが。時が来れば話してやる。……今は、自分の心をしっかり見ろ。万が一……道に迷っても、必ず帰って来れるようにな」
「先生……どうして、そんな顔をしてるんですか……?」
目の前の普段、キリッとした顔がどこか崩れ悲しげに見えて……何だか苦しそう。
「貴様こそ、鏡で自分を見たのか?今の姿を」
「……どこか変ですか?」
「気づいてないのか?それとも、気づきたくないのか……。手がかかる奴らだ」
先生は、少し視線を逸らして何か考えるような素振りを見せた後。
また、私を真っ直ぐに見下ろして……
「用事があったのではないのか?」
「……明智先生に呼ばれて。今から、保健室に」
頬を包んでいた手が離れ、
「逃げてばかりでは始まらんぞ」
チクリと胸に刺さる言葉を言い残して、先生は階段を降りて行く。私もその後を追うようにして、保健室に向かった。
明智先生に遅いとお小言を貰いながら、
身体測定の準備を手伝う。
「凄い雨……」
「雨に濡れて風邪など引くなよ。修学旅行前に」
「そう、ですね」
雨が激しくなるにつれて、
また表情が曇り出す。
さっきの先生と佐助くんの会話。
頭にぐるぐる渦巻いて、頭が重たい。
(だめ!今は余計なこと、考えないようにしないと!)
私は頬を叩いて、
気合いを入れ直そうとしたら、
ふわっと保健室特有の香りが広がった。