第149章 涙色の答案用紙(13)
一呼吸置いた後。
「………な、に」
やっと出た、息みたいな声。
そしたら、家康は私の手をスルスルと時間を掛けながらゆっくり離して……
「……おはよ」
それだけ言って自分の席に歩いていく。
それを横目で見届けた後。
「ひまりちゃん……あのね…」
「ご、ごめんね。お手洗い行ってくるね」
私は廊下に出る。
天音ちゃん。何か用事があるみたいだったけど、気を悪くさせちゃったかな……。
でも今は、
あのヘアピンを見るのが辛い。
(あの後、買ってあげたのかな)
とぼとぼ歩きながら、段々歩くスピードを早める。本格的に目頭が熱くなってくるのを感じて、急いでトイレに向かった。
鏡の中の私が歪む。
ぎゅっと握りしめる左耳上。
いつもそこにあったヘアピン。
そして、ずっと見れなかった反対側の髪をかきあげる。
赤いシルシ。
後かたもなく消えて。
ホッとする胸とは裏腹に、鏡の中の私は浮かない顔をして、別人みたいに笑う。
(髪……切ろうかな…)
単だ髪を掴み、じっと見つめる。
もう少ししたら……。
失恋定番みたいにいきなり切ったら、さすがに気を使わせちゃうかな?
修学旅行終わったら、切ろうかな。
そんな事を考えながら、予鈴が鳴るまで私は暫く笑顔の練習をしていた。
それからも、避けてるつもりは無くてもどうしても気まずい空気が流れてしまう。
必要最低限の会話。
何話したか全然覚えていない。
それに普段から家康は口数が少ないから……ほとんどボッーとしてた気がする。天音ちゃんも、物静かな子だから、あまり発言もなくて……
休み時間、修学旅行の計画立て。
晴れた日は青空の下、いつもは四人で食べていたお弁当。
まるで、気を利かせたように雨が降り出していた。