第149章 涙色の答案用紙(13)
朝起きたら、
目尻の横で生温い雫が枕を濡らす。
もしかしたら夢で、
家康でも見ていたのかもしれない。
でも私は昨日、
雑貨屋に二人がいるのを見て
……普通に接しようと心に決めていた。
だから……
新しいトリートメント。
新しいリップ。
ヘアピンは無いから、代わり片編み込みをして鏡の前で笑う。
お母さんからお弁当受け取って、
時計で時間を確認して……
そして、
「おはよう!」
「……ちょっとは、元気でたみたいだな。乗れよ。時間に余裕あるからな遠回りしてやる」
政宗から受け取る青いヘルメット。
家康と歩いた通学路を、
物凄いスピードで通り過ぎて行く。
昨晩、メールした。
これからは、
政宗か一人で行くからって。
油断すると出そうな涙は。
もう昨日の私に置いてきた。
私は家康の大切な幼馴染から
普通の幼馴染になれば良いだけだって。
「……無理するなよ」
信号待ち。
政宗はわざわざエンジンを止めて、
そう声を掛けてくれる。
聞こえないフリをするつもりなくても、言葉と胸が詰まって出てこない。
だからせめて、
(ありがとう。もう少し落ち着いたら……ちゃんと、政宗のことも……)
心の中で返事をした。
見えなくなった自分の心。
でも、目を閉じれば……
やっぱり、家康がいる。
こんな中途半端に、
甘えてごめんなさい。
再び、走り出したバイク。
靡く自分の髪から漂う香り。
その甘酸っぱさに、
私は政宗の広い背中に顔を埋める。
折角、遠回りしてくれたのに学校に着いたら、嘘みたいに道のりは記憶から消えてしまった。