第148章 涙色の答案用紙(12)※家康様side
ひまりの下駄箱の前で立ち止まり。
その中に手紙を入れる。
始まりの一通目は……俺の意思は僅か。
夏休み前の二通目は……半分ぐらい。
この三通目は……俺だけの想い。
(今度は俺が追いかける)
必ず、元のひまりを取り戻す。
駅前に着き、雑貨屋に向かう。
ワゴンの前まで来ると、一人でぶつぶつ言いながら悩んでるひまりが、まだ鮮明に浮かぶ。
ーーありがとう!
ヘアピンを渡した時の笑顔。
早く、取り戻したい。
買う時はバカみたい緊張した癖に、
今回はすんなり店内に足を踏み入れる。
中の店員に事情を話すが、仕入れ担当の定員が夕方にしか出勤しないと聞き、俺は仕方なく店を後にした。
(仕方ない。先に病院に行って後で来ればいい)
俺は店から一番近い、
バス停のベンチに座る。
待ってる間、携帯を取り出す。
未送信のメール。
『好きだ』
昨夜、送信ボタンまで
何度指を運んでも押せなかった。
俺は、携帯にぶら下がるイルカのストラップを、空に向ける。秋風に揺れて、光浴びて気持ち良さそうに泳ぐのを、水族館の思い出を辿りながら、ぼっーと見つめた。
頭の中はひまりで、溢れ。
ベンチに座るだけで懐かしい記憶が降りてくる。
ーー家康!あの雲、何かに似てない!?
高校生になっても、指を空に向けてはしゃぐ姿。まぁ、大抵食べ物に見えてたみたいだけど。お腹おさえてたし。
他にも、あり過ぎる思い出。
歩く度、どっかにひまりがいる。
幼馴染。
その言葉に俺が、
一番縛られていた気がする。
いつも当たり前にあった、笑顔。
俺が消した、簡単に。
それで政宗に、奪われるとか。
(何やってんの……俺…)
情けなすぎてほんと、笑えない。
追いかけるとか意気込みだけして、沈むとか。
目の前で停まる一台のバス。
無意識に座る、一番後ろの席。
やっぱりそこにもひまりが居た。