第148章 涙色の答案用紙(12)※家康様side
学校に着いてからの記憶。
乏しいぐらいない。
ホームルームの間に、
どう話しかけようか悩んで。
ひまりと目が合った瞬間。
その姿を受け入れない自分がいた。
授業とか、どうでもよくなって。
足は真っ先に裏庭に向いて、思い出したくない昨日の記憶を辿り、ある物を探す。ひまりを傷つけた俺が忘れるわけにはいかない。
白鳥は昨晩、家に帰った後。
泣きながら話した。
プロフィール帳は間違えたのではなく、……わかった上でひまりに黄色の封筒を渡していたと。
髪の香りのことも。
後から謝って、返すつもりだったと。
一日だけ、ひまりになりたかっただけだと。
一瞬怒りで力任せに壁を叩きつけたが、
白鳥の悲痛な顔を見て、それっきり失せた。
結局……
原因が全部、俺だとわかっただけ。
直接渡さなかったのも。
香りに惑わされて、
浮かれて間違えたのも。
ひまりの姿を変えたのも、全部。
(俺だ……)
芝生の隙間から出てきた、ヘアピン。
三つ葉のモチーフとピンの所で、ちょうど綺麗に真っ二つに割れていた。
俺はそれを指で擦って土を払い、
ポケットに押し込む。
一つだけでもいい。
いつものひまりを、取り戻せるなら。
(もうこれ以上。傷つけたくない)
長い間、見てきた。
ひまりだけを。
だからこそ、嫌でもわかる。
(多分、今は俺の姿を見るだけで……)
辛い想いをさせる。
それが、教室に戻れない理由。
何度目かのチャイムの音。
それを聞き終わり。
腕時計で時間を確認する。
(昼休みの間に、鞄だけ取りに行って……)
白鳥を病院に迎えに行く前に、
あの雑貨屋に寄ろうと計画を立てた。
割れたヘアピンを
ポケットから、取り出す。
そして、
石碑の前に移動して、石に触れた時。
ジャリ……。
「貴様、良い度胸だな。俺の授業を出ないとは?」
「……………」
声の主がわかると、
俺は、振り返ることなく黙り込んだ。