第147章 涙色の答案用紙(11)
部活終了後。
顧問と部長不在の為、いつもより早くに練習は終わり予定より早く、駅前についた。
ゆっちゃんは約束通り買い物に付き合ってくれて、私はテスターを試しながら新しいトリートメントをどれにしようか、悩んでいると……
「徳川のこと諦めるの?まだ、天音ちゃんと付き合ってるわけじゃないんだしさ」
ゆっちゃんは何か腑に落ちなことがあるのか、複雑な表情を浮かべる。
「でも、少なくとも家康が好きな子は天音ちゃんだってわかったし。それに……昨日、夜に抱き合ってるのも見た…から……あ!この香りどうかな?柑橘系も秋っぽくていいよね!」
私は香りを確かめた後、手に少量乗せて髪につける。
すると、ゆっちゃんは急に険しい顔つきで私がいつも使っているトリートメントを、見ていた。
「どうしたの?」
「携帯用のなくなったんだよね?私は確かにひまりの鞄に入れたはず。……なのに無くなってるなんてさ」
「昨日、夢中で走ってたからどっかで落としたのかもしれないから。新しいのに変えたいのは、気分転換で!ゆっちゃんの所為とかじゃないからね!」
そこは強く否定する。ゆっちゃんに責任を感じて欲しくないのと、トリートメントを変えたいのは別に理由があった。
大会の打ち上げの帰り道。
夏の大三角の星空の下。
家康が言った台詞。
ーー……好きだから。小さい頃から、ずっと……この香り。
ツヤ感を確かめる為、覗きこんだ丸い小さな鏡。その中の私の表情が曇って、髪から甘酸っぱいフルーツの香りが広がる。
大袈裟かもしれないけど、何だか別人になったみたい。