第147章 涙色の答案用紙(11)
三つ葉のヘアピン……。
私が踏んで壊した。
パキンッ。って、あの時の音が頭の中にまだ残り、小刻みに脚が震えだす。
「ヘアピン…は……」
震える声。
だめ……その先が出てこない。
スカートの裾を掴んで。
必死に涙を我慢しようとしたら……
「……ひまり」
初めて校内で下の名前を呼ばれ、
一瞬聞き間違いかと思った。
先生は、私の顎を指で上に持ち上げ軽い息を吐くと優しく微笑んでくれて……
「先生……」
「妙なもんだな。泣かせたいわけでは無いが……そんな顔も見たいとも思う」
大きい手。
頭を包み込むように降りてきて、
「先生か……。貴様が卒業するまでは、な」
え?先生は卒業しても先生じゃ……。
先生の言っている意味がわからなくて、キョトンと見上げると頭の上に置かれた手が今度は頬に移動しながら、まるで一筋の線を描くようにして、降りていく。
「泣きたい時は泣け。笑いたければ笑え。自分の心まで見失うな」
それが今の私には必要だと言って、真剣な目と和らぐ微笑みを一緒に届けてた時。
鼻がツンとして、
ゆっくりと涙が頬伝う。
気づかない内に流れた一筋。
まるで、さっき先生が描いた線を辿るようにして床にポタリと落ちる。
先生の言葉が、心にじわじわと染み込むように広がっていく気がして……
涙はそれっきり、
すぐに止まった。
「……不思議ですね。先生の言葉……凄く安心感があって、あったくて……上手く言えませんが、ありがとうございます」
「やはり、貴様は……。同じことを」
「え??」
「これも、ただの戯れごとだ。早く行け、昼休みが終わってもいいのか?」
私は、一礼して屋上に向かった。