第147章 涙色の答案用紙(11)
時間はゆっくり……
それでも時計の針はちゃんと動いて、授業は進んでいく。
「中間は広範囲の問題を出す。貴様らに浮かれる暇などない。普段から予習、復習しておけ」
先生はチョークで軽く黒板を叩くと、私達を向いて口角を上げる。
「先生〜修学旅行前に言わないで下さいよーっ」
「楽しみが半減するじゃないですか〜」
一学期とは違い、織田先生の圧にもすっかり慣れた皆んな。気軽にそんな嘆きを訴えれるぐらいまで打ち解けていた。
「余裕がある奴が、一人いるようだが?」
先生は目をスッと細め、ある席を睨みつけ、教科書を教壇の上に乗せる。
(天音ちゃんは、今日。病院だから仕方ないけど……)
家康は、朝のホームルームが終った後から姿を消していた。
一度も話をしていない。
ただ、ゆっちゃんが私を廊下まで引っ張って行く時に……
一度だけ目が合ってしまった。
(何であんな顔……)
思い出すだけで、
胸がえぐられるように痛くなる。
視線を感じた気がして、つい見てしまった。
ほんの一瞬。
絡み合った視線。
時間にしたら、数秒もなかった。
家康の瞳に何か「衝撃」を受けたような色が見えたと思ったら、抜け落ちたみたいに表情から一気に色が消えて……
目頭が熱くなる前に、
私は目を逸らした。
(天音ちゃんを病院に迎えに行くなら……部活は来ないかもしれない)
ぽっかり開いた二つの席。
それを見るのが辛くて、
また窓を見てしまう。
どんどん
真っ直ぐ見れないものが、
増えていく気がする。
チャイムの音。
皆んなの明るい声。
今の私には
どこか遠くの音のように聞こえて……
家康が一度も戻らないまま、
お昼休みになっていた。