第147章 涙色の答案用紙(11)
チャイムが鳴り。
皆んなが席に着く。
始まるホームルーム。
窓から空を見つめる。
「起立!………礼……」
日直さんの声。
今、自分が立ってるのか座ってるのかもわからないまま始まり……。
「今日の予定だが……」
織田先生が教壇に立つ音。
(後で先生に聞かなきゃ……)
『昨日のこと』
もうその言葉。
心の声でも、出したくない。
ぼんやりとそんな事を考えながら、ただ顔を左に向けて流れる雲をただ瞳に映す。真っ白な雲。秋風が教室に舞い込んで、白いカーテンがヒラヒラと空気を含み動く。
普段なら靡く自分の髪から、微かに漂った花の香り。今は、ただ秋の切ない風がさわさわと揺さぶるように、私の頬を通り過ぎるだけ。
(……前向いて話を聞かないと、いけないのに)
どうしても、家康の横顔も背中も見る勇気がなくて。ずっと、窓の外を見てしまう。
そして、
「ひまり!!ちょっと、来て!」
ゆっちゃんに腕を引っ張られて、廊下に連れ出されるまで……流れる雲をただ瞳に映していた。
「おはよう、ゆっちゃん」
「ひまり……」
上手く笑えてるかな?
少し自信なかったけど、
私は笑顔を作る。
すると、
ゆっちゃんは辛そうに目を細めて……
ぎゅっと私の肩を抱く。
「ばかっ!何度も電話したんだから!」
「ごめんね?心配かけて……」
「謝らなくていいから!あと、無理に笑うのも禁止だから!」
あえて触れないのも優しさ。
でもこうやって痛みに触れてくれるのも、優しさなのかもしれない。
(ありがとう。後でちゃんと話すからね)
泣いちゃだめ。
私はあと何度こう言い聞かせて、
高校二年生を過ごすんだろう。
家康と同じクラスで嬉しかった春。
秋になった今は、同じクラスなのが辛かった。
同じ新学期でも、全然違う。
私は、ゆっちゃんにしがみ付いて……
「帰りに買い物付き合ってくれる?」
トリートメント。
新しいのを探しに行きたかった。