第146章 涙色の答案用紙(10)
………………。
(おめでとう。って、書いてあったんだよね)
誕生日プレゼント?って聞いても、家康は景品って言い切って。
「な、んで……こ、んなに覚えて…」
屈みこんで体を小さく丸める。そっと自分の肩を抱いて、握りつぶされたように痛い胸を落ち着かせた。
昨日を無理矢理閉じ込めても、今までに思い出は沢山あり過ぎて……。
私は、また泣きそうになる前にリップをポーチの中に仕舞う。
学校に行こう。
一人でいたくない。
鞄を持ってリビングに入る。すると、お母さんは私を見て、いつも通りにおはようって声を掛けてくれた。
「昨日はごめんなさい……ただいまも言わずに……」
「あら?そうだったかしら?それより、はい。ひまりの好きなオムレツ、今朝は大成功よ」
ポンとテーブルに置かれたお皿。
黄色のふわふわオムレツが二個も乗っていて、え?何で二個も?思わず、お母さんを見る。
「昨夜、食べてないからお腹減ってるでしょ?大好物なんだから早く食べなさい」
さり気ない母親の愛情。
それが嬉しくて、食欲がなくても私は美味しいって言いながら頬張る。口いっぱいにふわふわ卵入れて、もぐもぐ食べて頬を押さえて……味がわからなくても、お母さんの背中を見ながら食べたら、それだけで胸の痛いのが和らいだ。
リビングのテレビ。
ほぼ、毎朝見てた占いコーナー。
「今日の魚座は……」
私は気づかないまま、ご馳走様と言って食器を片付けると玄関に向かう。
靴を履いてコンコンと数回爪先を叩く。
姿見に映る自分に笑いかける練習。
トリートメントも付けてない。
三つ葉のヘアピンも付けてない。
お気に入りのリップも付けてない。
昨日とは違う私が、
いってらっしゃいと呼びかける。
「行ってきます」
今出る、精一杯の声でそう行って足を外に勇気を使って一歩踏み出した。