第146章 涙色の答案用紙(10)
制服に袖を通して。
ドライヤーで髪を乾かしてセット。
つい癖で左耳に差すヘアピンを探す自分がいて、また泣きそうになって、頬を叩いて気合いを入れ、ポーチの中に手を入れリップとトリトーメントを探す。
(あれ?……ない。鞄の中かな?確かにゆっちゃんと天音ちゃんに見せて……)
と、思って隅々まで探してみたけど……鞄の中になくて、私は首を横に動かしながら、記憶を辿りかけて……
途中で止める。
携帯用でそれ程、
量も入ってなかったしね。
大したことじゃない。
朝から言い聞かせてばかりの自分。
何かしていないと落ち着かない。
何か他ごとを考えないと、すぐに動けなくなる自分。
昨日を思い出したくない。
それが一番の本音。
でも、次々と出てくる
家康の思い出の品。
ピンク色のお気に入りリップを、
持った手が止まる。
(思い出しちゃいけない)
それなのに、感情とは別に勝手に頭の中で再生をはじめる記憶。
三月三日。
十六歳の私の誕生日。
ーー貝合わせ?
ひな祭りでもある私の誕生日。だから夕飯はちらし寿司と蛤の吸い物って小さい頃から決まってて……。リビングに飾られたお雛様の小ぶりの段飾り。
その近くで、
家康の提案で貝合わせをすることに。
ーー平安時代から伝わる遊戯。江戸時代の貝合わせは、ハマグリの内側に蒔絵や金箔で装飾されて……って、ひまり聞いてんの?
ーーちゃんと、聞いてるよ!早くやりたい!
古くから伝わる遊び。
私達は綺麗に洗った対になった貝を二つにして、裏に同じ印を描く。それを何個か繰り返し、裏向けた。
ーー対になった貝を多く選んだら、勝ち。俺に勝ったら、景品あげる。
ーーほんと!?何だろう?よーし!負けないよ!
景品付って甘い誘惑に、
真剣になって遊んで……
負けず嫌いな家康。
普段から、ゲームとかで私が勝った記憶なんて無いに等しかった。