第146章 涙色の答案用紙(10)
早く、終わって欲しかった昨日。
今日という日。
私は布団から手を出して、携帯のアラームを止める。もぞもぞと顔だけ出して、欠伸よりも先に大きなため息を吐いた。
(無遅刻、無欠席……)
春に自分が立てた目標。
それまで、見失うわけにはいかない。
私はまた油断すると出そうになる涙を引っ込める為、くまたんを抱きしめる。昨日まで、仲良く並んでた子鹿のぬいぐるみ。今は、クローゼットの奥深く。
(普通にしてなきゃ。皆んなに心配掛けるわけには、いかない)
階段を降りてお風呂場に行く。
朝からシャワーなんて滅多にしないけど、それでも昨日の感情を洗い流すように少し冷ための温度に設定。
また、閉じ込めた気持ち。
閉じ込めきれなかった想いが、溢れ出す前に何度も頭を振ってかき消す。
キュッ。
シャワーを止めて髪の水分を軽く絞ると、今度は洗面台で瞼の腫れを確認する。
(ヒドイ顔……)
腫れぼったい瞼。
片目を瞑り、人差し指で押す。
鏡の中の自分と睨めっこ。
笑顔笑顔笑顔、心の中で呪文みたいに唱えて少しだけ緩んだ口元。
でも、髪を掻き上げた瞬間……
「……っ……ば、か」
泣きそうになる自分にそう言って、まだ薄っすら残るシルシを指や手で何度も何度も擦る。
ーー新学期始まるから、だめっ///
ーー……ひまりに拒否権なし。
夏休みの宿題を追い込みした、三日前。
擦って、手の甲でゴシゴシ拭くようにしたら首元全体が真っ赤。
ますます目立つ気がして首筋をタオルで軽く冷やす。
結局……このヒントの意味も何のヒントだったかも、わからないまま……。
暫く目を閉じて張り裂けそうな胸を押さえながら、部屋に戻った。